2012年02月23日

デンマークで学んだこと

2003年の夏、僕はデンマークにある語学学校の2週間のサマーコースに参加をし、デンマーク語で英語を学んでいました。
英語のクラスは僕以外はみんなデンマーク人で、その多くが年配の方でした。
今でこそ、多くのデンマーク人が英語を話しますが、少し年輩の方になると、あまり英語は話せないとういう方が多いのです。

英語のクラスはレベルによって2つのクラスに分けられていて、英語があまり得意でなかった僕は下のクラスでした。
00000069.jpg

そんなクラスメートの中に、オーブさんという、感じのよいデンマーク人のおじいさんがいました。歳の頃はもう70歳を越えていたでしょうか。
そんなオーブさんは僕によく話しかけてくれました。

オーブさんは切手集めが趣味でした。そこで僕が日本からの郵便物に貼ってあった日本の切手をあげると、大変喜んでいました。
ちなみに彼は「HOKUSAI」にとても興味があるのだそうです。
DSCF0208.jpg

そのオーブさんはサマーコースには奥さんと一緒に来ていました。奥さんの名前はトーベさん。彼女も歳は70歳を越えていました。とても大らかで、気品のある綺麗な女性だったのを覚えています。
彼女は僕とオーブさんとは違い、英語の上級クラスで学んでいました。
DSCF0005.jpg

ふたりはそのサマーコースには老後の趣味ということで、休暇を兼ねて英語を学びに来ていました。
そしてその2週間の間、よくふたりが一緒に散歩をしている仲むつまじい姿を僕は何度も見かけました。

この2週間のサマーコースには、最初の週末と最後の週末の2回、フェスタと呼ばれるパーティがありました。
DSCF0059.jpg

その日は学校の厨房が作る素晴らしく美味しい食事を楽しみながら、さまざまな催しがなされ、その宴は夜遅くまで続きます。
DSCF0061.jpg

2週間のサマーコースが終わる、そんな最終フェスタの夜のこと。

僕はその日のフェスタを飲んで踊って楽しんだ後、少し酔いを覚まそうと玄関の外へ出ました。
月明かりがとても綺麗だったのを覚えています。
学校のホールからは、まだまだダンスを楽しむ人たちの楽しそうな笑い声と、心地よい音楽が鳴り響いていました。
DSCF0157.jpg

その時、オーブさんとトーベさんが、会場のある建物から外へと出てきました。

窓から漏れる薄明かりの中、ひとり闇夜にたたずむ僕を見つけたオーブさんは
「僕たちはもう疲れたから部屋に帰って寝るよ、おやすみ。」
と声をかけて手を振ってくれました。
DSCF0171.jpg

そして、部屋へと向かう暗闇の中へふたりで消えていきました。

僕は、その時の、薄暗い月明かりに照らされた老夫婦の後ろ姿を、今でも覚えています。

もうとっくに70歳を越えているだろうその老夫婦は、外に出てきた時からずっと、手を繋いでいたのです。そして部屋に戻る時にも、ずっとその手は離れませんでした。

その雰囲気は、言葉に表すのが難しいですが、僕はその時に、きっとふたりの間にある絆はとても深いものなのだろうな、と感じました。
どんなに歳をとっても、自然と手を繋いでいられる。なんて素敵な夫婦なんだろう、と。

ふたりが見えなくなるまで、僕はずっとその後ろ姿を見つめていました。

僕も、オーブさんとトーベさん夫婦のように、いつまでも手を繋いでいられるような、それが自然に出来るような、そんな大切な女性に、いつか巡り会えればと思っています。
DSCF0167.jpg

日本では「デンマーク」と言うと「世界一幸せな国」などと称され、福祉が優れているだとか環境活動が盛んだとかと注目をされ、デンマークを知らない人たちはこぞって多少の知識を持つ人たちにそのような話を聞きたがります。

それを聞くことも話すことも僕は否定はしません。知らないことを知りたがるのは人間の性です。

でも僕は恩師からデンマークに行く直前に、「留学で最も大切なことは、知識や技術を得ることではなく、その国の人を知り、理解すること。」と教わりました。
そしてそれを心にして学んできました。
だからもし人から「あなたがデンマークで学んだことを教えてください」と言われたら、きっと僕はデンマークの建築の話や福祉事情、環境対策などではなく、このオーブさんとトーベさん夫妻の話をすると思います。

あれから9年が経ちましたが、いまでもおふたりが、幸せで元気に暮らしていてくださればいいなと、いつも願っています。
そして、今でも手を繋いでいる、素敵なカップルでいて欲しい、と。

どんなに歳をとっても、いつもその手を握ってくれる別の手がある。それこそが、世界一だとか日本一だとか関係なく、人生の中で、最も幸せなことなのではないでしょうか。
posted by Coyama at 20:53| デンマークのこと