2012年02月02日

あなせん

デンマークの有名人といえば、多くの人が挙げるのが世界的に有名なアンデルセン童話の作者Hans Christian Andersen(ハンス・クリスチャン・アンデルセン)さんです。アンデルセン童話の代表作でもある人魚姫のお話などは特に有名で、ディズニーのアニメ映画にもなりましたし、コペンハーゲンの街の北部にある物語を象った人魚姫像はデンマークの観光名所としていつも多くの観光客で賑わっています。
DSCF6101.jpg

一昨年の上海万博の際にはデンマークの象徴として、デンマーク館にこの人魚姫像がコペンハーゲンから運ばれて臨時展示をされていました。
写真.JPG

そんなアンデルセンさんはデンマークの真ん中の島、フュン島で生まれ育ちました。彼はフュン島にあるデンマーク第3の都市、オーデンセでその幼年期を過ごしました。そのころの体験が後の彼の物語への想像力を養ったと言われています。
そんなアンデルセンさんのことをよく知ることができるH.C.Andersen博物館がオーデンセの街にはあります。もちろん人魚姫像と同じくそこを目的に訪れる観光客はとても多く、日本からも多くの観光客が訪れており、博物館にはデンマ−ク語や英語の他に日本語のガイドブックも用意されています。
DSCF60009.jpg

その博物館には世界のアンデルセン童話を集めた図書館があり、日本語の本もたくさん保管されています。
その訳者の中には、日本でよく知られている『森鴎外』さんの名前があります。森鴎外さんも実はアンデルセン童話を翻訳し出版しているのです。
20000138.jpg

ところで、このH.C.Andersen(ハンス・クリスチャン・アンデルセン)さんですが、デンマ−ク語では実は『ハンス・クリスチャン・アナセン』 と発音します。デンマーク語では『D』は発音しないため、「アンデルセン」ではなく「アナセン」と発音するのです。
そのため、いくらデンマーク人に『アンデルセン』と言っても通じません。デンマーク人はみな彼のことを親しみを込めて 『ホー・シィー・アナセン』と呼びます(Hはデンマーク語では『ホー』と発音します)。

しかしアンデルセン博物館内の図書館に保管されているたくさんの日本語訳本のどれもが『アンデルセン童話』となっており、1冊も『アナセン童話』という訳はありません。

実は先ほどの森鴎外さんが訳したアンデルセン童話なのですが、それが日本で初めて紹介されたアンデルセン童話なのだそうです。森さんがドイツに留学をした際に、彼はアンデルセン童話を知り、帰国後にその内容を日本語に訳して日本に広めましたとされています。
おそらく森さんはドイツ語から訳したのだと思いますが、その時に『アンデルセン』と邦訳し、それがあまりに有名になってしまったため、その後デンマーク語からの直訳本もたくさん出版されたとは思うのですが、どれも『アンデルセン』と訳されてしまいました。
日本人に広く『アンデルセン』として知られてしまったため、今更『アナセン童話』とするわけにもいかなかったのでしょうね。

ちなみにこのアナセン童話ですが、デンマーク語のオリジナルをデンマーク語の教材として僕もいくつか読みました。
ところがオリジナルの物語は文章も内容もあまり良くはないのです。そのような物語が世界的に有名になったのは、きっと翻訳した人の腕がよほど優れていたのではないだろうかと思います。

内容もけっこう残酷な物語が多いです。「赤い靴」では少女の足を切断してしまいます。それに「マッチ売りの少女」も最後には少女は死んでしまいます。
アナセン童話には作者であるH.C.Andersenの人生が投影されていると言われていますが、よほどつらい人生だったのかもしれません。

それでもデンマーク人はホー・シィー・アナセンが大好きで、大人たちは今でも子ども達にそのお話を語り継いでいます。そしてそれはデンマークだけではなくて日本でもそうですし、世界の多くの国でも同じなわけです。

そんな世界に誇るデンマークの童話作家『アンデルセン』の正しい発音は『アナセン』。

最近の日本では、鎌倉幕府の設立は1192(いいくに)年ではなく1185年だとか、仁徳天皇陵は大山古墳だとか、当初の認識が間違っているとのことで教育の現場で変更がされていると聞きます。
だとしたら、『アンデルセンさん』という呼び名も、正しい発音の『アナセンさん』にしてあげるとよいのではないでしょうか。
0810280340.jpg

僕もたまに『オヤマさんですか?』と言われて『コヤマです!』と返すことがあります。たいしたことではありませんしあまり気にもしないのですが、それでもやはり『オヤマ』と呼ばれるといい気分ではありません。

なのでもし日本人が異国の方に対しても敬意を払う気持ちがあり、日本が歴史上の表記等も正しいものに変更できる成熟した社会であるのであれば、我々は彼のことを正しく『アナセンさん』と呼んであげるべきなのではないかと、個人的には思っているのです。
posted by Coyama at 23:38| デンマークのこと